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研究内容

材料の構造を制御

[1] プラズマ誘起気相成長法

プラズマ誘起気相成長法 photo1_2.jpg photo1_3.jpg

 右二つの写真のスケールを見てください。剣山のような構造はナノサイズですね。実は、この剣山、炭素でできています。筒状の炭素がナノサイズで存在し、それが揃って配列していることから、このような構造をカーボンナノチューブアレイ(Carbon Nanotube Arrays)と呼びます。どうやればこのような剣山を人工的に合成できるのでしょうか。左の写真のようにプラズマを化学反応場として利用することで合成できます。

 ナノサイズの凹凸を持つ触媒金属をプラズマによって励起された炭素ガス種に曝すと、触媒金属にその炭素種が低温で溶解します。金属への炭素の固溶量が限界に達した後、炭素が触媒金属の外に掃き出されます(析出します)。なお、このような反応プロセスを気相-液相-固相機構(VLS機構)と呼びます。

 得られた多層カーボンナノチューブアレイのガス検知に関する成果はp-n接合が関係しており、論文等で公表予定です。カーボンナノチューブと金属酸化物半導体とのp-n接合効果については以下をご覧ください。
http://www.hindawi.com/journals/jnm/2008/352854/
http://kaken.nii.ac.jp/d/r/20336184

[2] 陽極酸化法

(a) 陽極酸化ポーラスアルミナ(APA)

陽極酸化ポーラスアルミナ1 陽極酸化ポーラスアルミナ2 photo_a_3.jpg photo_a_4.jpg

 上の4枚の写真は全てナノホールです。どうやればこのような穴を人工的に形成させることができるのでしょうか。

 アルミ表面に不動態膜を形成させるために希薄な酸性溶液中で腐食させる、もしくは電解酸化する手法を一般にアルマイト処理と呼んでいます。不動態膜はアルミナ(Al2O3)という結晶膜であり、アルミ製部材をアルマイト処理した後に染色することが工業的に実施されてきました。実は、この不動態膜の穴のサイズを人工的に制御することができます。2枚のアルミ板を酸性溶液中に浸漬し、数~数十ボルトの電圧を印加することで、陽極側のアルミ板が溶け出すと同時に酸化されます。このようにして得られた酸化膜(不動態膜)は陽極で酸化されて形成されることから、陽極酸化ポーラスアルミナ(Anodic Porous Alumina)と呼んでいます。酸性溶液の種類、濃度、温度、電圧の印加時間などの電解条件によって、穴のサイズを制御できます。この穴を鋳型(テンプレート)に用いて、カーボンナノチューブアレイを合成することもできます。
http://iopscience.iop.org/1347-4065/45/1R/333/

(b) 陽極酸化チタニアナノチューブアレイ(TNA)

photo_b.jpg

 チタン板を陽極酸化することで、左の写真のようなチタニアナノチューブアレイ(Titania Nanotube Arrays)を得ることができます。印加電圧、印加時間などの電解条件によって、TNAの厚さ、TNAを構成しているチューブの口径を制御できます。光触媒として有名なチタニアが粉体ではなく、チューブアレイの場合はその光触媒特性がチューブ長さ、あるいはチューブ内径のどちらに依存するのか、議論が分かれるところです。
http://www.hindawi.com/journals/ijelc/2011/656939/cta/

[3] 水熱法 

   酸化物半導体の結晶面を制御するには結晶の核発生の段階に外部から何らかの物理的障害を設け、特定の方向に成長(異方成長)させる必要があります。その一つの例として、界面活性剤等の有機物質による表面吸着があります。核発生の段階に周囲から等方的に有機物質で被覆させるために密閉容器内の飽和水蒸気圧を利用した水熱環境を利用します。結晶粒はOstwald熟成により、成長します。有機物質が特異的に吸着する結晶面の成長が抑制されます。このような方法で、酸化チタン、酸化タングステン、酸化セリウムの結晶面制御の例については、以下をご覧ください。

・TiO2ナノ結晶
http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2013/RA/c3ra43383h#!divAbstract
・WO3ナノ結晶
http://www.scientific.net/KEM.538.308
http://ieeexplore.ieee.org/xpl/articleDetails.jsp?arnumber=6411090
・CeO2ナノ結晶
http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2014/RA/C3RA47661H#!divAbstract

[4] 衝突反応場による高温高圧物質の創製

衝突反応場による高温高圧物質の創製

 遊星ボールミル(Planetary Ball-Milling)は公転と自転を物質の粉砕に利用する装置です。例えば、直径数mmのボールと粉砕対象物を直径数cmの円筒容器に入れ、それを回転台の公転軌道に設置し、公転運動させます。それと同時に、円筒容器の自転運動も組み合わさってボール間もしくはボールと円筒容器内壁の間で生じる球面衝突によって粉砕対象物が細かい粒子に砕かれます。この装置は不要物や産廃処理の前処理段階である粉砕工程に利用されることが多い装置です。目を宇宙に転じると、惑星間の衝突によって発生した隕石には単斜晶コーサイト、正方晶スティショバイト、α-PbO2型チタニア、斜方晶チタニア、イルメナイト等の他にも天然に多く含まれる元素種の酸化物が含まれ、いずれも高温高圧環境下で形成されたことが分光学的に実証されています。遊星ボールミルによる衝突現象を利用することで、高温高圧物質を室温に多量に凍結させることができれば、その物性評価により、これまでに確認されていない新奇なマテリアルの発見につながるかもしれません。

 上の図はスチールポット内のスチールボール間の衝突による通常の遠心力(Fnormal)に加え、剪断力(Fshear)が生じると仮定しています。150 Gの遠心力によってもたらされる衝突エネルギーのシミュレーション値とステンレススチールの比熱等の物性値を 基に、24時間の衝突実験によって剪断力によって発生する熱はポット内で約480 kK、ボール1個当たりで約230 Kです。瞬間的にボールが最密充填の状態で接した場合は、その12倍の温度になります。ボールが接した状態から一旦離れると、千数百℃の高温状態は瞬間的に数百℃に焼き入れされます。このような衝突反応場にイルメナイトを投入した場合、高温状態でイルメナイトの構造が不安定になり、そこにボールによる剪断力が作用することでイルメナイトの構造が歪むことで生成した高温高圧相が凍結されます。
http://www.nature.com/srep/2014/140416/srep04700/full/srep04700.html

マイクロ・ナノ半導体デバイスの作製

 [1]~[4]の構造制御されたナノサイズの素材を応用するためには、基本的な物性の評価が重要になってきます。マクロ的な評価のみでは見えてこないマイクロ・ナノの世界での電子の振る舞いを可視化するには、マイクロ・ナノの電極に素材を搭載した半導体デバイスの作製が重要な役割を担います。

[Ⅰ] CNTアレイセンシングデバイス(マイクロギャップ櫛型電極)

CNTアレイセンシングデバイス

 カーボンナノチューブをマイクロサイズの金櫛型電極(ギャップサイズ: 5 µm、櫛歯: 50本)上にアレイとして成長させた例です。先端のNiナノ粒子の存在により、特定のガスに対するシグナルを検出できます。
http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/publication/trans-jwri/pdf/412-05.pdf

[Ⅱ] SnO2薄膜センシングデバイス(ナノギャップ対向電極)

SnO2薄膜センシングデバイス1 SnO2薄膜センシングデバイス2

 通常の紫外線露光装置によって石英基板上にデザインしたPtパターンの線幅が少ない場所(線幅: 50 µm)をフォーカスイオンビーム(FIB)法により1 µm以下の小さい電極間ギャップ(左図:光学顕微鏡写真の↑部)を形成させ、その上に酸化スズナノ粒子(平均直径: 15 nm)を成膜(厚さ:0.1~0.5 μm)することでセンシングデバイスとなります。空気中での電気抵抗(Resistance in air: Ra)を3 ppm H2Sと空気の混合ガス中での電気抵抗(Resistance in gas: Rg)で除した比(Ra/Rg)が1より大きい時は、硫化水素によってn型半導体であるSnO2の電気抵抗が減少している事を意味します。この比をセンサ応答(Sensor response: S)と定義した場合、電極間ギャップが1 µmの時のセンサ応答(S≒40)に比べ、電極間ギャップが0.1 µmの時のセンサ応答(S≒700)は格段に向上しています。これはギャップサイズが減少することで、SnO2粒子間の粒界抵抗よりも電極とSnO2粒子の間の界面抵抗が大きくなることが関係しています。この現象を利用した研究成果は以下をご覧ください。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925400510007215

[Ⅲ] WO3薄膜センシングデバイス(ナノギャップ櫛型電極)

WO3薄膜センシングデバイス

 電極と酸化物との界面抵抗の寄与を増加させるため、電子ビーム(EB)描画と紫外線(UV)露光を組み合わせ、ナノサイズのギャップを有する櫛歯電極を作製することができれば、界面抵抗の寄与を最大限に活かした超高感度センシングデバイスの設計指針になります。上図はその実例です。この場合のセンシングの対象ガス(被検ガス)は酸化性ガス(NO2)であるため、WO3ナノ粒子表面にNO2が吸着すると、WO3の電気抵抗が増加します。WO3ナノ粒子と電極との界面が多い50本櫛歯電極では10 ppb NO2に対して約30のセンサ応答(S=Rg/Ra)を示しています。この櫛歯電極を有するWO3薄膜センシングデバイスのNO2検出限界は0.06 ppbです。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925400508000695